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法要騒動記

  
  「岡山県エッセイストクラブ」に入会して4年になる。個性的な人の集まりで、会の運営も難しそうだが、私は高齢者と言うことで、役を免除いただいている。が、ホームページメンテナンスに微力ながらお手伝いをしている。毎日新聞岡山版と山陽新聞、会の機関誌「位置」に発表の場がある。新聞に掲載の枠を確保されていることは会員にとって難関ではあるけれど幸いなことだ。私も数回掲載されたが、ブログ記載の作品をベースに校正したものである。以下の文も同様で、毎日新聞 2016-09-24に載ったものである。
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   リレーエッセイ(テーマ:気配)
  法要騒動記                   岩城 嵩
 郷里和歌山に菩提寺がある。開祖の命日に合わせた法要開催の通知をいただいた。
「いつも欠席ではまずい」と数年ぶりに出かけた。参加者は30人ほどで、住職と若院(副住職)の人柄と信仰心が吸引力となって、檀家の信徒衆も仲良く寺の行事に関わり合っている。
当日の主役は、将来跡取りになるはずの3歳の坊やである。元気いっぱい、いたずら盛りで、客が大勢いるとさらにハッスルするようだ。
 第1部の読経では、住職と坊や(孫)の戦いであった。
住職は普段の法事では省略されがちな長い経を朗々と詠まれた。一同も共に読誦するが、多少遅れ気味になる。ましてや坊やは退屈で辛抱できない。
荘厳な雰囲気が崩れ始める。坊やは住職の横手にある木魚が気になって、叩きたくて手を延ばすと、住職の手が「すー」と伸びてきて邪魔される。僧衣の裾をいじると住職はそれを尻の下へ折り込む。おばあさんの坊守りは気が気でない。捕まえて別室へ連れていくが泣き叫ぶ。離すと、今度は本堂を走り回る。それを止めようとする若奥さんもほとほと困り果てている。
でも、何といっても、かわいい期待の坊やである。皆の困った顔の裏に、抑えきれない慈しみの表情が見て取れる。
 第2部の法話では、若院と坊やの親子対決となる。
説教の巧みな若院さんは、法話に登場する「無知な衆生」のたとえ話に、坊やを組み入れて、話を面白く盛り上げようとする。
一同も初めはほほえましい風景を楽しんでいたけれど、法話の肝心なところは坊やの雑音で聴きとれなくなった。多くの人は、気持ちがかき回されているように見えた。 
 第3部の談話会では、最初に若院さんは坊やの行為に対して、謝罪された後、将来を見据えて「息子ののしつけはどうあるべきか」を信徒に尋ねられた。
ある人は「もっと自由にさせてあげても良い、温かいまなざしで見守って上げよう」といい。ある人は「せっかくの法要を静かにおごそかにしてほしかった」といい、ある人は「信徒の意見もよいが、親が責任を持って…」などと、それぞれ意見を言った。

 坊やの走り回る音、泣き叫ぶ声、住職の読経の声、若院の法話の名調子、坊守の叱る声、木魚の音、鐘の音、一同の読経の声、笑い声、自説を述べる男の声、遠慮がちにしゃべる女の声、お茶をすする音、お接待のぜんざいを食べる音、などなど…。
さまざまな非日常的な音が心の中で残響し合っていた。その総合音は参加者一同の満足気で不快感のない安らいだ気配だ。
心地よい多様性に満ちた印象深い一日であった。
                ☆
いわき たかし   玉野市田井在住

by houro-ki | 2016-09-26 23:07 | 自選エッセイ集  

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